セカンドインパクトなるものが発生してから、15年が過ぎた。
現在でも何が起こったのか判明していないが、
全世界の政治、経済、産業、その他、すべてが白紙の状態になってしまった。
貧富の差は瞬く間に拡大し、ごく少数の支配層が国や人種を超えた、
新たな社会を形成したのだった。
これはそのような時代に出逢った、少年と少女の物語である。
The Island of Eden 〜 序 章 〜 |
「大丈夫ですよ、シンジ様。この飛行艇はこんな嵐で墜ちたりしませんわ」
「だって、だって、こんなに揺れて!うわっ!」
「大丈夫です。怖いなら、私の胸で…ぐわっ!」
「すみません。シンジ様、伊吹は錯乱した模様で…。
おい、青葉、早く後ろに連れて行け」
「日向さん。大丈夫ですよね。墜ちませんよね」
「大丈夫です。この程度の嵐では墜落などしません。少し揺れるかもしれませんが」
「いやだな…。揺れるのは」
「碇財閥以外にこんな最新鋭の飛行艇はありません。大丈夫ですよ」
日向のその言葉を聞いても、シンジの青い顔は変わらなかった。
その頃、機内某所では…。
「伊吹さん、シンジ様を誘惑など、全く油断も隙もない」
「私、そんなことしてません」
「いいですか。碇財閥会長の一人息子なんですよ。あのお方は。
少々頼りなくていらっしゃるが、いずれは財閥のトップに立たれるのです。
その時には私たち御付の者3名は出世街道まっしぐら。
そのためには、下らない真似などして、御付から外されたら大変なことになります。
いいですか、伊吹さん。
もし、シンジ様に何かあったなら、あなたの命など、会長にかかれば…」
ひぇ〜…。伊吹マヤは顔を引きつらせた。
「そういえば、伊吹さんのバッグ、シンジ様の座席の横に置き放しにしてましたよね。
早くこっちに運んだ方がいいですよ。もし、そのバッグに…」
「はい!わかりました!今すぐ」
そのとき、扉を開けて、日向マコトが入って来た。
「ふぅ…、参ったな。シンジ様、完全にブルってしまってるよ。
あまりうるさいから、脱出装置のことを教えておいたけど…」
「おい、あまり変なこと教えたら…」
ガタッ!
「きゃっ!」
「わ!今の揺れは大きかったな…。シンジ様、またブルって…」
「どうしたんだ…日向。何、固まって…」
日向の視線を追った、青葉の表情もまた凍りついた。
二人の視線の先にある赤い点滅しているランプを見て、マヤは明るく尋ねた。
「何なんでしょうか?あれ」
「緊急脱出装置の作動したことを告げてるんだ…」
「ああ…そうなんですか…」
そして、バランスの崩れた飛行艇が傾いていった。
マヤの悲鳴を残して。
それから何時間経過したのか、シンジには見当がつかなかった。
日向が教えたボタンを無我夢中で押すと、座席ごと外に放り出されてしまったのだ。
低空飛行をしていたのがまだ幸いだったのだろう。
衝撃で気絶して、気がついたときには、
シンジは座席に座ったまま大海原の真中にプカプカ浮いていたのだ。
着水したときにエアボートになる仕掛けがあったのだろう。
さもなくば、自分で何もできないシンジは溺れていただけだろうから。
「良かった。僕が冷静だったから、こうして無事でいられるんだ。
あとは助けにきてくれるのを待つだけだ」
一人で納得しているシンジだったが、救助が来る筈はなかった。
シンジが勝手に脱出した所為で、機体に穴が開いた状態になった飛行艇は
荒れ狂う風雨に瞬く間に水面へ不時着する羽目になったからだ。
乗員乗客の生死は不明。
それどころか飛行艇がどこで遭難したかも、日本ではわからないのだ。
セカンドインパクトの所為で地磁気が狂い、レーダなどは無用の長物となり、
文化一般がまるまま一世紀以上後退したといわれている、この時代なのだ。
シンジの我儘と見栄で、大型客船ではなく、
世界で数機しかないという長距離飛行艇を使用したのが仇となった。
外遊先のアメリカからの帰途であった。
もちろん、馬鹿息子よ、モヤシっ子よと陰口を叩かれていたシンジに、
飛行艇がどこをどう飛んでいたかなどは知る由もない。いや知ろうともしなかったのだ。
セカンドインパクト以降、太平洋上の島のほとんどは無人島になっている現在、
救助が来る事を信じきっているシンジだけが、状況を楽観しているのだった。
「あ、島が…。でも、どうやれば、島がこっちに来てくれるんだろう…?」
そんなもの、島が来る訳がない。
そんなこともわからない、ボンボンの馬鹿息子、碇シンジは、
これから先、どのようになるのでしょうか?
序章 −終−
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<あとがき>
新連載、はじめました。肩のこらない作品にしようと思います。
今回は序章ですので、アスカ出てません。どのように出て来るかは想像がつくでしょうが。
因みに今回の元ネタは、E・R・バローズの『石器時代へ行った男』です。
読んだとき、すぐに「あ、これはLASだ」と思いました。
現在流通してませんから、読むことは困難でしょうが、一読をお奨めします。